心珠区記

畠田心珠ともうします。書家。書道教室のことなどはホームページ h-shinju.com をご覧くださいませ。

第72回毎日書道展 出品作について

f:id:shinju-h:20210720004050j:plain

一から図を引け

かんかんと槌の音を響かせよ

与謝野晶子

 

やさしくないなあ、と思いました。優しい気分になれない作品だ。そりゃそうか、命令文だ。

今回のテーマは、「潤筆と渇筆(※)の重なり合いから遠近感が生まれないかしら、そして枠からはみ出ること」でした。

(※)墨がたっぷりの線と、かすれた線

 重なり合いについては、こんなイメージ 東京国立博物館コレクション 升色紙 

 

「一」という画数の少ない字と、画数の多い「圖」(旧字体)の重なり合い、そして、空いたスペースに書く小書き(小さい字たち)がそれを引き立てる役を担ってくれるか、という期待をしていました。頭で想像したり、計画したりするのは簡単です。しかし、だいたいそれは思い通りにいきません。

 なんで「一」がこんな左から始まっているのか、なんで小書きがこんなちんちくりんなのか。会場で見て唖然としました。特に小書きの最後の「響かせよ」か全く響いてない。隣の「引け」に墨が入っているから、「響かせよ」はもっとふわっとすればよかった。ふわっと白いところと、ぎゅっと黒いところが一枚の紙の中でうまくせめぎ合うような作品が書きたいな。そう考えると、「図」も、もっとふわっとすればよかった。

 もう一つ。墨。思い返すと、わたしは墨にあまり意志を持って制作していないです、正直。そこに意志を持って制作しているひとに、意識を向けたいです。「こうすることは誰かに失礼かもしれない」と思って自分の行動に制約をかけることは、これからあまりしないようにしようと思っているけれど、計画性がないがゆえに結局いつも同じ感じ、になるのは避けたいところです。

 

 毎日書道展東京展前期は7月19日までです。前期のみ展示の作品だけを見ました。週末に全部見ようと思います。毎日賞の作品は、やっぱり、書くことを思いっきり楽しんでいる雰囲気がとってもよい。このかたたちが、どうか、これからもずっと楽しさと共に書を学べたらいいなあといつも思います。

 知っているみなさんの作品はいつも楽しみにして美術館に行きます。今回はなぜかいつも以上に「この詩文を書かれたのねえ」と、作品の前でその方を思い浮かべました。なんででしょう、ずっと会ってないからかな。素敵!って思った人も、えー、って思った人もいるので、ご本人に直接伝えていこう。

 やっぱり詩文を書く以上、書いた言葉からは逃れられないし、それに責任を持ちたい。